窓から見える椰子の森と海ができるまで〜制作工程

窓から見える椰子

現場制作四日目からです。

目次

四日目 近景の木々

遠景の森の手前、何本かの椰子の木がそびえる近景レイヤーへとすすみます。

幹から描き始めたところで、空に不満が出てきました。葉が密集する背景にあたる空のトーンが少し暗いようです。手前に濃い色の葉っぱを描くつもりですから、その背景の空はもっと白く明るいほうがいいのです。
一旦木から離れ、空の調整を行いました。

そしてふたたび椰子に戻り、幹を描いて葉を描き込みます。
遠景の森で使用した「濃い色」「明るい色」は実は少々濁った色です。それだけを塗っているとわかりにくいですが、手前の木の濃い色と薄い色を乗せていくに従って、背景の森の濃淡の幅が小さいという事実を再確認できます。
手前の木がくっきり見えると思います。

 

でも実はこのレイヤーのくっきり感もまだ抑え気味なのでありまして、さらに手前のレイヤーを描き入れたときに別の見え方になる筈です。

この日のインターバル撮影によるパラパラ動画。

五日目 近景の植物

作業五日目は画面下方の、近景の植物レイヤーいきます。このレイヤーレベルになるとかなり近景です。植物の葉っぱや花などが登場します。難航しそうです。

作業して一晩置いて翌朝見てみると、昨日描いたところで気に入らないところも発見できます。日課として、まずは前日書いたものの調整などを行ってから、あらためて近景植物へと進みます。

近景になってくると色の判断が難しくなってきました。近景といっても直近ではありませんから、まだ黒レベルを真っ黒にするわけにいかず、派手レベルを100%にすることもできません。かといって、ちょっと濁らすと一気に背景に溶け込んでしまいますから、加減のいいところに落ち着かせるのが難しいものです。

今回この絵は何しろ派手さを目的にしています。普段はあまり色の派手な絵を描きませんので、強く意識していないとすぐに古色やまろやかな色になってしまいます。

 

一番手前のレイヤーにある花を残して、植物群がだいたいできあがりました。

 

六日目 手前の花

一晩寝かせて精神を落ち着かせ、手前の花に取りかかります。
今回の壁画は幅が2.5mに満たないサイズです。壁画としては小さく、でも普通の絵画にしては大きいのです。
実を言いますとこのサイズが一番たいへんです。
大きな絵を前提とした塗りの密度と、小さな絵を前提とした塗りの密度は全然違うもので、このサイズですと大きな絵のつもりで描くとすかすかの印象をぬぐえません。どうしても小さな絵の密度で描く部分が多く出てきます。つまり大変なんです。

制作前に何となくイメージしていた壁画っぽい描き方では価値が出ないと思い、丁寧な描写に切り替えた結果やっぱり予定日数がどんどん超過していきます。
六日目までに完成して翌日クリアして終了という甘い目標はとっくに崩れ去り、このままではあと四日かかるという危機が迫っています。

一日の仕事を終え、ここまで出来上がっている絵を眺めながら残りの作業を考えます。「右の椰子の葉、左の椰子の葉、花も中途半端、それから全体の調整、そんでもって窓枠…あと3日必要だな。トップコートまで考えると4日」
現実には残りはあと一日しかありません。
仕方がないので現実を放棄し、六日目という日が二日間あることにします。ついでに七日目という日も二日間あることにすれば計算が合います。

 

六日目-2 直近の葉、窓枠の準備

六日目の二日目です。とかわけのわからないことを考えながら気分もあらたに作業開始。
窓枠のだまし絵部分が放置されています。窓枠は面ごと部分ごとに乾燥時間も必要ですから絶対時間が多く必要です。今日中にベースとなる部分だけはやっとかないといけません。

一旦養生を剥がして窓枠の木目を入れておきます。秘技を使って木目を入れ、木目の乾燥時間を利用して風景の中身を進めます。

右側の椰子の葉のシルエットを黒い色で描き加えます。丁寧に描いていた植物群の上を躊躇なく塗りつぶします。
そして反対側の椰子の葉っぱを描き入れます。こちらはシルエットではなく明るい色です。思った通り、大きい葉っぱなのでそれなりに大変です。

 

こうして六日目の二日目が終了し、残すは一番手前の椰子の葉をもう一つと窓枠のだまし絵、それに中途半端なままの黄色い花となりました。

 

七日目の一日目 風景の完了

いよいよ最終日です。ですが最終日その1ですので焦ることなく、落ち着いて作業します。

 

細かい調整は随時やりますが、一旦ここで風景部分に区切りを付けます。最終日その1を終了し、少し休んで最終日その2のために英気を養います。

手前の椰子の葉っぱを描いている様子。

 

八日目 完成

七日目のパート2ですが最終的には日付もまたがったことだし8日目ということにしておきます。

さて七日目の夜、新たな日を迎えた気分で窓枠のだまし絵を完成させます。やたらと直線で塗り分けも多くあります。一箇所描いては乾燥、その間に別の箇所を描いては乾燥、その隙に乾いた箇所の隣を描く、と、そういうあっち行ったりこっち行ったりしながら進めます。今どの面描いてるんだっけと混乱しながらも動き回って窓枠を仕上げます。

 

完成したので養生を剥がします。この養生は途中何度も剥がして張り直しています。そうしないと危険ですから。
最後に養生を剥がすと、窓枠を描いた影響で一部ほんの少しにじみ出していたりします。
絵の外側は珪藻土壁なので、はみ出た部分を色で修正することは出来ません。ですので、はみ出た部分を覆うように少し窓枠を広げます。養生されていない状態での最後の仕上げです。

こうして絵が完成ました。でもまだあります。本来は「一晩寝かせて翌日トップコート」です。
ですがもう寝かせる一晩というのは存在しません。そこで数時間放置します。

数時間放置するのも酷なので、細かいところに修正をいれたり、悪あがきもします。そして撤収の後片付けをやっていると、数時間などあっという間に経ちます。
最後のバーニッシュ仕上げに必要な材料を残してすべて撤収し、最後の最後、もう一度養生してからバーニッシュを全面に塗布し、すべての作業を終えます。

これにて完了。ありがとうございました。